ロボティック・トランスオービタル手術の未来と課題:新しいアプローチが切り開く頭蓋底手術の可能性
近年、低侵襲手術の進展により、内視鏡を用いた頭蓋底手術が注目を集めています。特に経鼻的アプローチは多くの疾患でスタンダードとなりつつありますが、視神経外側やMeckel腔など、従来のアプローチではアクセスが困難な領域への到達は依然として課題です。
そうした背景の中で、新たな術式として注目されているのがトランスオービタルアプローチ(TOA)です。その中でも今回紹介する論文「Feasibility of Robotic Transorbital Surgery」(Operative Neurosurgery, 2025)は、ロボティック技術をLTOA(lateral transorbital approach)に応用する可能性を解剖学的に検証した意義深い研究です。
なぜこの研究が重要なのか?
この研究では、DaVinci Xiロボットを用いて、V1(上眼窩裂)、V3(卵円孔)、三叉神経後根といった部位へのアプローチの可否を、6体の遺体頭部で検証しました。結果として、現在のロボットツールのサイズ(8mm)が大きく、カメラ+1本のツールしか挿入できないことが判明しました。しかし、術野自体は広く操作角度も十分であり、ツールの小型化が進めば、将来的な臨床応用が期待されます。
現時点での課題
- ロボットツールの小型化と衝突回避設計
- 触覚フィードバック(haptic機能)の実装
- 多ポータル手術の実現(例:transnasalやparamaxillary併用)
- 他頭蓋底領域への応用拡大
- 術前シミュレーションとの統合
未来に向けた展望とやるべき研究
- 医用工学との連携によるマイクロツール開発
- AIによる術前プランニングとリスク予測
- AR/VRを活用した3D術前シミュレーションの実装
- 多ポータル戦略とロボット・内視鏡のハイブリッド手術確立
- 教育・訓練プログラムの開発と標準化
医療の未来に対する哲学的視点
本研究は技術的側面だけでなく、「最小限の侵襲で最大限の効果を得る」という外科哲学を体現するものです。また、触覚や空間認知といった外科医の「感性」をいかに技術で補完・再構築するかという問いは、ロボティック手術の進化において不可欠なテーマとなっています。
おわりに
ロボティックLTOAは、頭蓋底外科の可能性を広げる革新的アプローチです。今回紹介した研究は、技術・解剖・哲学の三位一体で未来医療を考える上で、出発点として非常に価値ある一歩といえるでしょう。
参考文献
Min Ho Lee, Limin Xiao, Juan C. Fernandez-Miranda. Feasibility of Robotic Transorbital Surgery. Operative Neurosurgery. 2025; 28(4): 506–510. DOI: https://doi.org/10.1227/ons.0000000000001321