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経鼻内視鏡手術におけるICG蛍光の定量化ガイド

投稿日:

はじめに:ICG蛍光とは何か?

近年、内視鏡下頭蓋底手術では、インドシアニングリーン(ICG)蛍光が術中ナビゲーションとして注目されています。特に下垂体腺腫の手術においては、腫瘍と正常下垂体を識別する手段としてE-ICG(endoscopic ICG)が利用され始めています。

蛍光の強さを数値化し、術後ホルモン予後との相関を解析する取り組みも始まっており、Shaheinら(2021)はその先駆けの一つです。本記事では、その手法を基に、ImageJによるICG蛍光定量化の方法を解説します。

ICG蛍光の色はシステムによって違う

  • Karl Storz:蛍光は緑色で表示される
  • Stryker:蛍光は青色〜青緑色で表示される

ICG自体は近赤外光で発光しますが、医療用内視鏡は擬似カラーでそれを可視化しています。機器ごとに色の割り当てが異なるため、解析に使うチャネル(Red, Green, Blue)も異なります。

なぜ定量化が必要か?

  • 目視評価では主観的でばらつきがある
  • 蛍光の強さを数値化することで、術後の下垂体機能との相関を検討できる
  • 再現性ある研究データの構築が可能になる

ImageJによる蛍光定量のステップ

  1. 画像を読み込み
    手術動画から切り出した蛍光画像(TIFF, PNGなど)を用意
  2. RGBスタックへ分解
    [Image] → [Type] → [RGB Stack]でRed/Green/Blueに分ける
  3. 適切なチャネルの選択
    Karl Storz → Greenチャネル(スライス2)、Stryker → Blueチャネル(スライス3)
  4. ROIの設定
    腫瘍、正常下垂体、血液、ICAなどを囲んでROI Managerに登録
  5. 輝度の測定
    [Analyze] → [Set Measurements]でMean Gray Valueを取得

蛍光比率の算出方法

指標 計算式 意味
Gland/Blood Mean(gland) ÷ Mean(blood) 正常腺の血流性蛍光集積
Tumor/Blood Mean(tumor) ÷ Mean(blood) 腫瘍の血流性蛍光集積
Gland/ICA Mean(gland) ÷ Mean(ICA) MRIとの比較で有用

Karl Storzでの注意点

蛍光が緑色表示されるため、Greenチャネル(Slice 2)で測定するのが基本です。赤い出血や反射光の強い部分はノイズとなるため、ROI選択時には十分な注意が必要です。

Shaheinらの研究からの学び

Shaheinら(2021)は、下垂体手術症例におけるICG蛍光と術前MRIの造影効果の間に高い相関(r = 0.92, p = 0.001)があることを報告しました。これは術前MRIによって術中の蛍光分布を予測する可能性を示唆する重要な知見です。

ImageJマクロ(自動計算用)

run("Set Measurements...", "mean decimal=3");
roiManager("Select", 0); run("Measure");
gland = getResult("Mean", nResults - 1);

roiManager("Select", 1); run("Measure");
tumor = getResult("Mean", nResults - 1);

roiManager("Select", 2); run("Measure");
blood = getResult("Mean", nResults - 1);

print("Gland/Blood: " + (gland / blood));
print("Tumor/Blood: " + (tumor / blood));

まとめ:E-ICG定量化のチェックリスト

  • 表示色に合わせてRGBチャネルを選択
  • ROIは同サイズ・同形状で比較
  • 比率(G/B, T/B, G/ICA)を用いた客観的評価
  • ImageJは無料で高機能、再現性が高い

おわりに

蛍光ナビゲーションは「見える手術」を実現する有用な手段です。定量化の導入により、術中判断の客観性と再現性が向上し、研究の信頼性にもつながります。本記事が、ICG蛍光の臨床応用と研究の第一歩となることを願っています。

参考文献

  1. Shahein MN, Hettige S, Stubbs DJ, et al. Intraoperative indocyanine green fluorescence endoscopy for endonasal skull base surgery: A quantitative analysis with correlation to magnetic resonance imaging. J Neurosurg. 2021;135(2):456–463. doi:10.3171/2020.4.JNS20217

-下垂体, 脳神経外科, 論文

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