【手術技術紹介】眼窩縁切除ETOAで深部頭蓋底病変へ安全・広範なアプローチ
はじめに
内視鏡的経眼窩アプローチ(ETOA)は、頭蓋底外科において中頭蓋窩・錐体尖部・後頭蓋窩前部などへの低侵襲アクセスを可能にする手法として注目されています。しかし、その術野は狭く、特に眼窩縁(orbital rim)が内視鏡や器具の操作を制限する大きな要因でした。
この制限を克服するために提案されたのが、眼窩縁を一時的に切除する拡大アプローチ:ETOA-OR(Endoscopic Transorbital Approach with Orbital Rim removal)です。今回は、2024年にHongらが報告した解剖学的研究と臨床応用をもとに、この手法の有用性と手術手順を紹介します。
この研究の概要と新規性
- 研究対象:献体頭部5体(10側)を用いて、通常のETOAとETOA-ORを比較
- 目的:眼窩縁の切除が手術視野・操作自由度・切除可能な骨量に与える影響を評価
- 結果:
- 骨削除量:+38.5%
- 錐体尖部削除量:+39.5%
- 後頭蓋窩での操作自由度:+158%
- 臨床応用例:再発性硬膜腫に対し全摘出を達成。第6脳神経麻痺の改善を確認。
🔍 新規性のポイント:ETOA-ORと通常のETOAとの定量的な比較を世界で初めて実施し、その解剖学的優位性を明確に示した点が重要です。
手術手順の詳解:ETOA-ORの流れ
- アプローチと体位
仰臥位、頭部固定。上眼瞼皺に沿って皮膚切開(整容性良好)。 - 眼窩縁の切除(Orbital Rim Removal)
下眼窩裂から側頭窩へ水平切開、前頭頬骨縫合より上方へ垂直切開し、外側眼窩縁をen blocで切除。 - 骨削除と中頭蓋底展開
外側眼窩壁 → 蝶形骨大翼・小翼 → 脳膜眼窩結合帯(MOB)を切離し、中頭蓋窩硬膜を剥離。 - 前錐体切除術(Anterior Petrosectomy)
錐体尖部をダイヤモンドバーで削り、後頭蓋窩硬膜を露出。 - テント切開と後頭蓋窩展開
テント切開により視野を拡大。脳幹、V~VIII脳神経、基底動脈を視認可能に。 - 腫瘍摘出(臨床応用例)
眼窩縁切除による広角視野を活かし、腫瘍を安全に全摘出。術後に神経症状の改善を得た。 - 骨再建
眼窩縁は術後に再建し、整容性と機能の両立を図る。
実際の症例における有用性
論文で紹介された症例では、Gamma Knife治療後に再発した錐体海綿部髄膜腫に対しETOA-ORが適用されました。従来アプローチでは困難だった部位まで安全に到達し、全摘出が可能となりました。術後に第6脳神経麻痺の改善も得られており、臨床的な有効性が示されています。
注意点と今後の課題
- 眼窩縁切除に伴う整容的リスク(眼球陥凹、側頭筋萎縮など)については、術前に十分な説明が必要です。
- 術者の習熟度により術後成績が左右されるため、専門的なトレーニングが重要です。
- 今後、多施設による臨床応用例の蓄積が期待されます。
おわりに
ETOA-ORは、狭い術野という従来のETOAの限界を克服し、深部頭蓋底手術の新たな選択肢となる可能性を秘めたアプローチです。低侵襲性と術者の操作性を両立しつつ、整容性も保てる点が大きな魅力です。今後のさらなる臨床応用と発展が期待されます。
📚 参考文献
Hong CK, Mosteiro A, Kong DS, et al. Endoscopic transorbital approach to the petrous apex: is orbital rim removal worthwhile for the exposure? An anatomical study with illustrative case. J Neurosurg. 2024;141(6):1595-1603. doi:10.3171/2024.3.JNS232834