思春期の子どもと向き合うということ 〜感情の嵐と、親の心の守り方〜
思春期の子どもと毎日向き合うなかで、「もう限界かもしれない」と感じる瞬間は、きっとどの家庭にもあるのではないでしょうか。
ある日、ある親御さんから「毎日のようにぶつかって疲れ果てている」という相談を受けました。子どもは思春期真っ只中で、自分のやりたいことを優先し、親の言葉には耳を貸さず、時には嘘をついてでも自由を手にしようとする。そして、そのたびに激しく感情を爆発させる――。
親はなんとか冷静に接しようとしますが、日々続く衝突の中で心も体もすり減ってしまいます。ストレスから体調を崩し、医師から「このままでは危険」と言われた方もいました。
この記事では、そうした「嵐のような時期」をどう乗り越えるか、心理学・神経科学の知見を交えて考えてみたいと思います。
自由と責任のバランス:信じる姿勢が子どもに残る
思春期は、「自分で決めたい」という自律性の欲求が強くなる一方で、まだ現実的な判断や感情のコントロールは未熟な時期でもあります。
心理学では自己決定理論(Self-Determination Theory)があり、「自分で選んでいる」と感じることが学習意欲や行動の安定に影響するとされています(Ryan & Deci, 2000)。
親が「やることをやれば自由にしていい」と伝える姿勢は、子どもへの信頼と責任感を育てる有効な方法といえるでしょう。
なぜそんなに感情的になるのか?―脳の発達を理解する
感情をつかさどる扁桃体が先に発達し、前頭前野(理性や抑制)が未成熟な思春期では、感情が先走りやすいとされます(Giedd et al., 1999)。
親が冷静さを保ち、適切なタイミングで距離を取ることで、衝突の悪循環を断つことができます。
嘘や体調の訴えの裏にあるもの
嘘や体調不良の訴えには、「怒られたくない」「自分を守りたい」という心理が潜んでいることがあります(Kazdin, 2001)。
命に関わることについては厳しく伝える必要がありますが、叱るのではなく「命のことは正直に伝えてほしい」と対話を重ねる姿勢が大切です。
親の心と体も守る必要がある
育児バーンアウトは近年注目されており、親の精神的・身体的負担が子育てに深刻な影響を及ぼすとされています(Mikolajczak et al., 2018)。
ときには周囲に頼ること、自分の時間を確保することも、子どもとの関係を持続するためには必要です。
思春期は“通過点”であり、信頼の土台をつくる時期
エリクソンは思春期を「自我の確立」の段階とし、反抗や葛藤も成長の一部であるとしました(Erikson, 1968)。
親が一貫して「信じて見守る」ことで、将来の信頼関係の基盤が築かれていきます。
おわりに:完璧な親よりも、向き合おうとする親であること
子育ては正解のない試行錯誤の連続です。完璧であろうとするより、心が折れそうになりながらも、向き合おうとするその姿勢こそが、子どもにとっての安心と支えになります。
どうか、あなた自身の心と体を大切にしてください。
参考文献
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory. American Psychologist.
- Giedd, J. N., et al. (1999). Brain development during adolescence. Nature Neuroscience.
- Kazdin, A. E. (2001). Behavior Modification in Applied Settings.
- Mikolajczak, M., et al. (2018). Parental burnout. Journal of Child and Family Studies.
- Erikson, E. H. (1968). Identity: Youth and Crisis.