はじめに
高齢で低栄養状態にある患者に対して、侵襲的な手術を予定する場面は、日常臨床でも決して稀ではありません。中でも、アルブミン値が著しく低い患者は、術後合併症や死亡リスクが高くなるため、手術適応やタイミングを見極める判断力が問われます。今回は、アルブミン1.8 g/dLの82歳女性に開頭腫瘍摘出術を検討する症例をもとに、術前評価と対応について解説します。
症例提示
- 年齢・性別:82歳 女性
- 体重・BMI:30kg、BMI 13.1
- 主訴:左眼の視力低下、ふらつき
- 現病歴:2か月前から左視力の低下、1か月前からふらつき。MRIで前頭蓋底部に腫瘍を認め、当科紹介。
- 既往歴:高血圧、心房細動(ワーファリン内服)、骨粗鬆症
- 生活背景:食事摂取低下、屋内自立、屋外は杖歩行
身体所見・検査所見
- 血圧 114/62 mmHg、脈拍 84(不整)、SpO₂ 正常
- 左視力低下(0.2)、軽度下肢浮腫
- Alb 1.8 g/dL、Hb 9.8 g/dL、CRP 0.2 mg/dL、PT-INR 2.1
画像所見
頭部MRIにて右前頭蓋底部に3.8cmの造影性腫瘍を認め、髄膜腫が疑われる。軽度の脳浮腫あり、midline shiftなし。
術前の総合的評価
この症例では以下のリスクが認められます:
- 高齢(82歳)
- 低栄養(体重30kg、Alb 1.8)
- 貧血・抗凝固療法中
- 高侵襲手術(開頭腫瘍摘出術)
POSSUMスコアによるリスク予測
POSSUM(Physiological and Operative Severity Score)は、術後の合併症や死亡率を予測するツールです。
- 生理スコア(Physiological Score):25点
- 手術スコア(Operative Score):18点
予測術後合併症率:81.9%
予測術後死亡率:28.7%
術前に取るべき対応
① 栄養・全身状態の評価と改善
- プレアルブミン、体重変化、握力などの栄養指標の確認
- 高たんぱく・高カロリー食、経口栄養補助食品
- 必要に応じて経管栄養・TPN、アルブミン製剤(20%)の使用
- NST介入とリハビリ併用
② 手術適応とタイミングの見直し
腫瘍の性質 | 治療戦略 |
---|---|
良性・非進行性 | 栄養改善後に計画手術 or 経過観察 |
良性・症候性 | 部分摘出や減圧術などの低侵襲手術を検討 |
まとめ
- 低アルブミン血症や低体重は、術後合併症のリスクを著しく高める。
- POSSUMスコアを活用することで、術前に客観的リスクを評価可能。
- 術前の栄養介入、全身状態の最適化、適切な手術タイミングの選択が重要。
- 切るか、待つか、代替手術にするかを、腫瘍の性質と全身状態から総合的に判断する。
このブログはこんな方におすすめ
- 術前リスク評価を学びたい研修医・若手医師
- 高齢者の手術に悩む脳神経外科医
- NSTやリハビリとの連携に関心のある内科医
- 家族へのリスク説明に説得力を持ちたい医療者