はじめに
最近、「AIが10年以内に医師や教師を代替する」といったニュースが話題になりました。確かに、AIはすでに画像診断やカルテの整理など、医療の現場でも活躍を始めています。
では、手術を行う「外科医」の仕事はどうなるのでしょうか?ロボットがメスを持ち、手術をすべて自動で行う未来が本当に来るのでしょうか?
この記事では、AIが進化した時代に外科医が担う役割や、人間にしかできないことについて、わかりやすくお伝えします。
外科医の仕事とは?AIにできること・できないこと
外科医は、がんや脳の病気などを「手術で治す」専門家です。しかし、外科医の仕事は単に「切って治す」だけではありません。
- 手術をするかどうかの判断
- どこを、どのように切るかの計画
- 手術中の臓器の状態や予期せぬ事態への対応
- 術後の回復を見越した選択
これらは、一つひとつが命に関わる重大な決断です。
AIにできること
- 病気の画像診断(がんや脳出血など)
- 手術のシミュレーションやナビゲーション
- 標準的な症例に対する治療提案
→ つまり、「よくある症例」や「ルール通りの処置」は、AIが人間よりも正確かつ速く処理できるようになります。
AIにできないこと
- 予測不能なトラブルへの即時対応
- 人の命やQOL(生活の質)に関わる複雑な判断
- 患者さんの不安や気持ちへの寄り添い
- 最終的な責任の引き受け
→ 手術中に突然大量出血が起こったとき、AIはとまどってしまいます。「この操作をしたらどうなるか」「どうすれば最小限のダメージで済むか」を考え、行動できるのは、今のところ人間の外科医だけです。
外科医がAI時代に担う新しい5つの役割
AIやロボットがどんなに進化しても、外科医が不要になることはありません。むしろ、役割は変化し、より重要な立場になります。
① 最終判断者としての責任
どの術式を選ぶか、どこまで切除するか、リスクと成果をどう天秤にかけるか――
これらの判断は、一人ひとりの体と人生を深く理解しなければできません。
AIが診断を支援しても、「実際に手術するかどうか」を決めるのは人間の外科医です。
② 技術の“操縦士”としての役割
近年は、ロボット手術や内視鏡、ナビゲーションシステムなど、まるでSFのような技術が手術現場で活躍しています。
これらを使いこなすには、機械への理解+人間の判断力+経験に基づく勘が求められます。
外科医は、まさに「未来の手術の操縦士」となる存在です。
③ 患者に寄り添う専門家
手術には不安がつきものです。
「命に関わるかもしれない」「後遺症は残らないか」――そんな患者の気持ちをくみ取り、支えるのは人間にしかできません。
AIは情報を出せますが、気持ちに寄り添うことはできません。
④ 若手医師の育成・技術の伝承者
手術は「技術」と「判断力」の積み重ねです。
AIは手術の操作は教えられません。人間が人間に伝えるしかないのです。
シミュレーターやVRでの教育が広がる中でも、最後はやはり「人の手から人の手へ」伝える力が求められます。
⑤ チーム医療の中心としてのリーダー
手術は、医師一人ではできません。看護師、麻酔科医、放射線技師、リハビリスタッフなど、さまざまな職種と協力して進めます。
AIが加わっても、その全体を統括し、最終的な方向性を決めるリーダーとしての役割は、外科医が担い続けます。
まとめ:AIが進化しても、外科医が担う「人間の力」はなくならない
AIが医療の現場にどんどん入り込んできても、外科医の仕事はむしろ「より人間らしい部分」に集中していくことになります。
手術の手技そのものは、ロボットやAIが一部代替できる時代が来るかもしれません。
ですが、「命の選択」をする現場で、人間の判断力や責任感、そして寄り添いの心が不要になることは決してありません。
AI時代の外科医は、「手で切る人」から「命を導く人」へと進化していくのです。
おわりに
医療も社会も、これから大きく変わっていきます。でもその中で変わらないもの、それは人と人とのつながりや信頼です。
「AIに負けるかもしれない」と思う時代だからこそ、人間にしかできないことを見つめ直すことが、未来の医療をつくる第一歩になるのではないでしょうか。