WNT型髄芽腫の再発と治療失敗の最新知見
小児脳腫瘍の中でも注目されている「WNT型髄芽腫」。このタイプは予後が非常に良好で、5年生存率が90%を超えると報告されています。しかし、近年の研究により「再発」や「治療失敗」が一部で起こりうることが分かってきました。
この記事では、最新の6つの研究論文をもとに、WNT型髄芽腫の再発と治療の課題について、医療関係者から一般の方まで理解できるように解説します。
🔍 髄芽腫とは?
髄芽腫(medulloblastoma)は小脳に発生する悪性脳腫瘍で、主に小児に発症します。遺伝子やエピゲノムの違いにより、以下の4つの分子サブグループに分類されます:
- WNT型
- SHH型
- Group 3
- Group 4
このうちWNT型は、最も予後が良好とされています。
💡 それでも再発はある
最新研究によると、WNT型でも再発や治療失敗のリスクが存在することがわかってきました。
✅ 再発率は低いがゼロではない
Nobreら(2020)の多施設研究では、WNT型の再発率は低いものの、完全にゼロではないことが明らかになりました。
✅ 遺伝子異常と再発リスクの関係
Goschzikら(2022)は、TP53変異やOTX2のコピー数増加がWNT型髄芽腫における再発・予後不良と強く関連することを示しました。
✅ 放射線省略は慎重に
Cohenら(2023)の研究では、放射線を省いた群で再発が認められ、全例に放射線省略を適用することは危険とされました。
✅ 再発例に対する治療
- Harrisら(2022): 自己造血幹細胞移植で長期生存例を報告
- Tsangら(2019): 再照射による延命効果を報告
🧬 診断精度を高めるDNAメチル化解析
Korshunovら(2019)は、DNAメチル化プロファイリングがWNT型の同定に有効であり、再発症例の再分類にも役立つと報告しました。
🧩 課題と今後の展望
- リスク因子(TP53変異など)に基づいた層別化治療の確立
- 再発例に対する標準治療の整備
- 放射線省略のための患者選別基準の明確化
📚 参考文献
- Cohen KJ, et al. Clin Cancer Res. 2023;29(24):5031-5037.
- Goschzik T, et al. Acta Neuropathol. 2022;144(6):1143–1156.
- Harris MK, et al. Childs Nerv Syst. 2022;38(2):465–472.
- Nobre L, et al. Cell Rep Med. 2020;1(3):100038.
- Tsang DS, et al. J Neurooncol. 2019;145(1):107–114.
- Korshunov A, et al. Neuro Oncol. 2019;21(2):214–221.
本記事が、WNT型髄芽腫に関する理解と、今後の治療戦略の検討に役立てば幸いです。