医師の仕事術

「直美」を減らせば、必要な医療の担い手は増えるのか

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【ご注意・追記欄】
この記事は2026年11月5日時点の公開資料にもとづいています。財務省の案は提案の段階で、決定事項ではありません。今後の議論で内容が変わる可能性があります。新しい情報が出た場合は、この記事に追記します。

2026年11月4日、財務省の審議会(財政制度分科会)が、美容医療などの自由診療を行う医療機関にも、医師や看護師を育てる費用の一部を負担してもらってはどうか、という案を示しました。若手医師が初期研修を終えてすぐ美容医療に進む、いわゆる「直美(ちょくび)」を念頭に置いた提案だと、報道では受け止められています。

この記事は、美容医療や、それを選ぶ医師個人を批判するためのものではありません。また、「直美が脳外科の人手不足を引き起こした」と言うものでもありません。そのような因果関係を示すデータを、私は確認できていません。

ここで考えたいのは、次の問いです。

美容医療への人材の流出を抑えるだけで、必要な診療科の担い手は増えるのか。

公的な資料を読み、私自身が現場で感じていることを重ねて、整理してみます。

1. 財務省は何を提案したのか(提案段階)

財務省が11月4日に出した資料「社会保障」(p.55)の内容を、要点だけ紹介します。

  • 医師・看護師の養成には、多額の公費と、保険診療の現場の人手が使われている。
  • その人材は、美容医療などの自由診療でも働いている。
  • そこで、美容医療等の一定の自由診療部門にも、利用する医師・看護師の数などに応じた負担を求めてはどうか。
  • 美容医療等で起きた合併症の治療に保険給付を充てることは、保険の原理と合わないため、給付の対象外と明確にしたうえで、事前に美容医療機関から負担金を集め、診療費に充てることも検討してはどうか。

いずれも「〜してはどうか」「検討すべきではないか」という書きぶりで、決まった制度ではありません。金額や開始時期も示されていません。なお、この資料には「直美」という言葉そのものは出てきません。

公費で育てた医師に、一定の期間は保険診療の担い手として働いてほしい、という問題意識自体は、理解できるものだと思います。

2. 「流出を抑える」ことと「必要な診療科に人が来る」ことは別

仮に、美容医療に進む人が減ったとします。そのとき、その人たちが、救急、産科、小児科、外科、脳神経外科などを選ぶとは限りません。医師が診療科を選ぶ理由は、収入だけでなく、勤務の負担、休める見通し、育児や介護との両立、教育の環境など、いくつも重なっています。

私が調べた範囲では、美容医療に進む医師の人数や割合を、公的な統計で確認することはできませんでした。進路の流れがはっきり見えないまま、一部の流れだけを抑えても、必要な診療科が埋まるかどうかは分かりません。

人手が足りない診療科を増やすには、「そこを選んだ人が、続けられる条件」が必要になるはずです。待遇、休息、教育・研修の環境です。

3. すでにある支援策と、その届き方

「支援がない」わけではありません。2026年度(令和8年度)の診療報酬改定で、新しい仕組みができました(2026年6月1日から実施)。診療報酬とは、医療行為ごとに国が決めている価格のことで、「加算」はそれに上乗せされる評価です。

国の制度(実施済み)

  • 地域医療体制確保加算2(入院初日 720点):若手医師が減っている診療科で、勤務環境や処遇の改善に取り組む病院を評価します。対象は、消化器外科、心臓血管外科、小児外科、循環器内科のうち、地域で医師の確保が特に必要な診療科を3つ以内で選ぶ形です。給与面での特別な配慮や、交代勤務制またはチーム制などが条件になります。
  • 外科医療確保特別加算(手術の点数の15%):長時間かつ高難度の手術を行う体制を整えた病院を評価します。条件には、対象手術が年間200例以上、その診療科に経験5年以上の常勤医が6名以上、チーム制または交代勤務制、勤務間のインターバルの確保、などがあります。さらに、この加算額の30%以上を、手当として当該診療科の医師に支給すること(その8割以上は常勤医に)が求められます。

自治体の独自策の例

  • 長崎県は、脳神経外科の専門医を目指す初期・後期研修医に、月15万円以内、最大4年間の研修資金を貸与しています(令和8年度募集)。決められた勤務義務を果たせば返還が免除されます。ただし、募集は小児科・産科・救急科・総合診療科・脳神経外科・精神科を合わせて7人程度で、国の一律の制度ではありません。

それは、医師本人に届いているのか

ここに、私の問いがあります。

  • 地域医療体制確保加算2の対象として書かれているのは4つの診療科で、脳神経外科は個別には書かれていません。厚生労働省の疑義解釈(運用の解説)でも、外科系全体として特定できるのは、他の外科系診療科と区別することが困難な場合に限られる、とされています。
  • 外科医療確保特別加算の条件は、規模の大きい病院向けのものです。小さな診療科や、地方の病院では、条件を満たしにくい場合があると考えられます。
  • 加算は「病院」に支払われます。それが医師本人の手当や休息に、どれだけ届くかは、病院ごとの運用次第です。
  • 参考として、日本循環器学会の調査(循環器の研修施設を対象)では、回答した586施設のうち、地域医療体制確保加算2を算定していたのは155施設(26.5%)でした。全国の数字ではなく、循環器に限った調査ですが、新しい制度の浸透には時間がかかっている様子がうかがえます。

自分の病院が届け出ているか、調べる方法

医療機関が届け出ている「施設基準」は、公開されています。

  • 各地方厚生(支)局のサイトにある「施設基準の受理状況」「届出受理医療機関名簿(医科)」で、医療機関名から調べられます(地域ごとに公開されています)。
  • 病院のホームページや院内の掲示に、届け出ている施設基準が載っていることがあります。
  • 病院の医事課・事務部門に尋ねる方法もあります。

「制度がある」ことと、「その制度が自分の待遇や休息に届いている」ことは、別の話です。

4. 現場の負担をどう評価するか(脳神経外科を例に)

ここからは、私自身の実感として書きます。

脳神経外科は、緊急の対応が多い診療科です。他の科と同じ当直体制でも、緊急の呼び出しや緊急手術が重なりやすく、負担が大きいと感じています。また、脳の病気には重症の患者さんが多く、手術後の管理にも、他の科より大きな負担がかかっていると感じています。そのうえで、手術の難易度が高く、一人前の術者になるまでの訓練にも長い時間が必要です。

公的な資料からも、長時間労働の傾向は見えます。厚生労働省の検討会資料(2026年9月10日、第2回「医師の働き方改革の推進等に関する検討会」参考資料)では、連携B水準・B水準の医師のうち、年間の時間外・休日労働が960時間を超える医師の割合を診療科別に比べると、心臓血管外科、循環器内科、救急科、外科、脳神経外科の順に高いとされています。

ただし、この数字には注意が必要です。

  • 対象は、長時間労働が必要として特例の水準を適用された医師だけです。脳神経外科医全体の勤務の実態ではありません。
  • 脳神経外科より上位に、心臓血管外科、循環器内科、救急科、外科が並んでいます。負担が大きいのは、脳神経外科だけではありません。

私は、他の診療科と優劣を競いたいわけではありません。それでも、緊急対応の多さ、重症患者の管理、高い難度の手術、育成にかかる長い時間といった負担の重さが、評価に十分に反映されているのか、という疑問があります。個人的には、こうした負担の大きい診療科には、より手厚い評価があってよいのではないかと考えています。ただし、診療科ごとの負担をどう測り、どう比べるのかは、簡単な問題ではありません。

5. 読者への問い

結論は出しません。いくつかの問いを残します。

  1. 医師が診療科を選ぶとき、何が決め手になるのか。収入か、休息か、教育か、やりがいか。
  2. 美容医療への流れを抑えることと、必要な診療科の待遇や環境を整えることは、どちらを先に、どれくらいの重みで進めるべきなのか。
  3. 病院への加算は、医師本人の待遇・休息・学びの機会として、どう届けるべきなのか。
  4. 負担の大きさや、育成にかかる時間は、どう測り、評価に反映できるのか。

医療の担い手の問題は、医師だけの問題ではありません。救急車で運ばれたとき、手術が必要になったとき、その場に診てくれる医師がいるかどうかに関わります。読者のみなさんが、どう考えるか、聞いてみたいと思います。

参考資料

  1. 財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会(令和8年11月4日)資料「社会保障」p.55-56 PDF(資料一覧)
  2. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定項目の概要」p.65-66 PDF
  3. 厚生労働省 疑義解釈資料の送付について(その2)令和8年4月1日 PDF、(その4)令和8年4月21日 PDF
  4. 厚生労働省 第2回 令和8年度医師の働き方改革の推進等に関する検討会 参考資料(令和8年9月10日)p.16 PDF
  5. 長崎県「専門医師確保対策資金貸与者募集《脳神経外科》」(令和8年度) PDF
  6. CBnews「新設の『地域医療体制確保加算2』算定は3割弱」(2026年10月6日) 記事

※本記事は、公開されている資料にもとづく一般的な情報と、筆者個人の見解です。所属する組織の見解ではありません。制度の詳細や最新の内容は、各資料の原文でご確認ください。
2026年11月5日 公開。

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